ふと思ったこと(その12)


 昭和23年(1948年)と言えば戦後3年目で、GHQ(連合軍総司令部)に促

されて、わが国の民主国家建設への歩みは確実なものになりつつあったが、復興の槌

音に混じって一部に混乱やとまどいが見られたとしても、それはやむを得なかったこ

とであろう。

この年に奈良光枝と近江俊郎のデュエットでヒットした、西条八十作詞 古賀政男作

曲の「愛の灯かげ(ほかげ)」がある。その1番には〈住むに家なき小鳩のわたし 

 雨にないてた焼け野原〉という2行があって、これは当時誰もが直面していた衣食

住の厳しい状況をありのまま取り込んだ1曲と言えよう。

また、NHKラジオは、「のど自慢素人演芸会」「二十の扉」「話の泉」などの人気

番組とともに、「尋ね人の時間」「復員便り」「(食料の)配給便り」「炭坑へ送る

夕べ「などのように、当時の世相を色濃く反映した番組を放送していたことも思い出

される。

この年の身近な出来事の中で僕が忘れられないことが三つある。その一つは、4月1

日から盲聾教育の義務制が実施されたことで、盲唖学校は「高知県立盲学校」並びに

「高知県立聾学校」と改称して分離独立し、教育課程は小学部・中学部・高等部に編

成されたこと。二つ目は、4月21日に校舎を愛宕町から越前町の元師範学校寄宿舎

に移転し、座学が始まったこと。三つ目は、8月末のヘレン・ケラー女史の2度目の

来日についてである。

68歳になったヘレン・ケラー女史は、8月29日から10月19日までの滞在期間

中に、東京を皮切りに東北・北海道神戸・広島・長崎などを歴訪して、盲人ばかりで

なく一般社会への啓蒙に多大の力となり、そのことが翌24年に公布された「身体障

害者福祉法」制定の原動力となったことは間違いない。

東京ヘレン・ケラー協会の福山博出版所長にいただいた資料によると、女史が訪問で

きない地方へは、盲人伝道団体として彼女が1928年に設立した「ジョン・ミルト

ン協会」の幹事長であったストファー博士が婦人を伴って赴き、名代として女子のメ

ッセージを届けたようである。

高知盲を訪れたストファー夫妻のお話を聴いたのは、9月の下旬か10月の初めの夕

方であったと思う。奥さんのしとやかなお声は今でも僕の耳に沈澱しているが、お話

の内容については、幾ら首を傾けても思い出せないのが歯がゆい。だが、その時にご

夫妻を歓迎するために、みんなで歌った「幸福の青い鳥」については、断片的ではあ

るが、62年後の今日まで、僕の記憶にはくっきり残っていた。この原稿の執筆にあ

たって、その記憶の断片をつなぎ合わそうと四苦八苦していたところ、ヘレン・ケラ

ー協会の福山博さんや母校の卒業生の井上幸子さん・沖郁子さん・谷八重さん・叉川

常子さん・橋本美智子さんなどのご協力で、下記の通りの完全な歌詞と再会できたこ

とが本当にうれしい。

ヘレン・ケラーの歌(幸福の青い鳥)

作詞 吉田啓文  作曲 飯田信夫

選定 H・K・C委員会 毎日新聞社

1 幸福の 青い鳥

  青い小鳥が とんできた

  遠い国から はるばると

  日本の空へ この窓へ

  海をわたって とんで来た

  ヘレン・ケラーの おばさまは

  いつも小鳥と いっしょです

2 幸福の 青い鳥
  青い小鳥を 見つけましょう

  みんな誘って 窓あけて

  こころの中に 青空に

  可愛いつばさを 見つけましょう

   ヘレン・ケラーの おばさまの

  肩に小鳥は とまります

3 幸福の 青い鳥

  青い小鳥が 歌います

  暗い涙は ふりすてて

  明るく強く ほがらかに

  生きてゆこうと 歌います

  ヘレン・ケラーの おばさまは

  きょうもみんなを 守ります

ところで、昭和23年の流行歌で僕の手元にあるのは35曲であるが、その内ヒット

曲としては、奈良光枝の「雨の夜汽車」竹山逸郎と中村耕造の「異国の岡」伊藤久男

の「シベリアエレジー」津村謙(けん)の」流れの旅路」岡晴夫の「憧れのハワイ航

路」近江俊郎の「湯の町エレジー」などが思い出される。「憧れのハワイ航路」はの

ど自慢で頻繁に歌われたし、湯の町エレジーはNHKの「お好み投票音楽会」で長ら

く首位の座を譲らなかったという、特大のホームランせいのヒット曲であったので、

以下にそれぞれの1番の歌詞を書き出してみた。

憧れのハワイ航路

作詞 石本美由起  作曲 江口夜詞  歌唱 岡晴夫

1 晴れた空 そよぐ風

  港出船の ドラの音(ね)愉(たの)し

  別れテープを 笑顔で切れば

  望みはてない 遥かな潮路

  ああ あこがれの ハワイ航路

湯の町エレジー

作詞 西条八十  作曲 古賀政男  歌唱 近江俊郎

1 伊豆の山々 月淡く

  灯りにむせぶ 湯の煙

  ああ 初恋の

  君を尋ねて 今宵また

  ギターつまびく 旅の鳥

なお、「憧れのハワイ航路」は、わが編集長片岡義雄さん(昭和45年卒)の十八番

の1曲であることを知る人は少なくない。


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