ふと思ったこと(その16)


 昭和27年(1952年)といえば、前年の9月に調印されたサンフランシスコ条

約が、この年の4月28日に発行して、6年8ヶ月の占領状態から解放され、鬼より

怖かったGHQも廃止されて、わが国が民主国家として独立の第1歩を踏み出した年

として僕の記憶は鮮明である。

それ以外の国内の重要ニュースとしては、1月31日、吉田 茂首相が、昭和25年

8月に発足したばかりの警察予備隊を切り替えて保安隊の新設を表明。3月26日、

昭和23年の夏から実施されたものの、評判の良くなかったサマータイムの廃止が決

定。4月9日、日航機「もく星号」が三原山に墜落して、37人が死亡。4月10日

、nhkラジオで連続放送劇「君の名は「(後述)の放送開始。5月1日、血のメー

デー事件が起き、二人が射殺され1230人が検挙された。7月18日、千葉県の古

代遺跡から発掘された2千年前のハスの実(大賀ハス)が開花。7月21日、破壊活

動防止法(通称破防法)公布。などを挙げることができる。障害者に関連するものと

しては、この年の4月に国鉄(現JR)が、身障者の旅客運賃の割引規定を公示した

国際ニュースとしては、2月8日、イギリスのエリザベス女王即位。5月26日、西

ドイツが主権回復。6月9日、わが国とインドの平和条約調印。10月2日、イギリ

スが初の原爆実験。11月1日、アメリカが初の水爆実験。などを挙げることができ

る。

 又、この27年は、年上で広島弁丸出しの同級生・常本吉夫(旧姓稲田)君ととも

に、僕が高等部に進学を許された年でもあった。

母校の沿革によると、この年の2月9日付で、高等部理療科が「あん摩師・はり師・

きゅう師養成学校」として、文部大臣の認可を受けた。4月13日には、寄宿舎(黎

明寮)が新築落成した。又、8月1日付で、盲・聾学校にそれぞれ専任の校長が任命

され、盲学校長に高木政弘師が、聾学校長に久米田佐敏師が就任したことによって、

文字どおり盲・聾の完全分離が達成されたわけである。

 さて、この年の流行歌で僕の手元にあるのは37曲であるが、華やかに登場した新

人たちに負けじと大ベテランの高田浩吉が「伊豆の佐太郎「をヒットさせ、一方美空

ひばりは、上昇気流に乗って「お祭りマンボ」「リンゴ追分」をヒットさせた。また

、この年にはこんな話も合った。戦犯として死刑判決を受け、フィリピンのマニラ郊

外のモンテンルパの丘の刑務所に服役中の人物から渡辺はま子宛に一通の封書が届き

、その中には短い手紙と「モンテンルパノ歌」という題名の楽譜が入っていた。渡辺

は早速ビクターにそれを持ち込んでほとんど修正無しで吹き込んだ。遠い異国の刑務

所に収容されていた日本人110余人の望郷の念を込めてつくった、代田(しろた)

銀太郎作詞 伊藤正康作曲の「ああモンテンルパの夜は更けて」は渡辺はま子と宇都

美 清のデュエットでホームラン級の大ヒットとなり、それが関係者の努力と相まっ

て、翌28年8月、フィリピンの日本人戦犯に対する恩赦につながったことは当時広

く知られていた。このように、この年もまた話題が多く前年に続いて方策の年であっ

たと言える。

 戦後発の芸者歌手神楽坂はん子は、西条八十作詞 古賀政男作曲で、「芸者ワルツ

」「こんな私じゃなかったに」「だから今夜は酔わせてね」などの長打を連発した。

ちなみに、僕も芸者ワルツは大好きであるが母校の山本 育(そだつ)先生は誕生日

会でよくこの歌を聞かせてくださったことが思い出される。

純情歌手としてデビューしたコロムビアローズは、西条八十作詞 上原げんと作曲で

「娘十九はまだ純情よ」のデビュー曲に続いて石本美由起作詞 上原げんと作曲の「

リンゴの花は咲いたけど」もヒットさせた。この歌は母校の安岡一誠先生のお好みの

1曲でもある。

3年余の下積みを経験した春日八郎は、大倉芳郎作詞 江口夜詞作曲の「赤いランプ

の終列車」のヒットで、演歌歌手としての第一歩を踏み出した。

ロンドンの花売り娘と改名したいような、小畑 実の「ロンドンの街角で」や、真木

不二夫の「泪の夜汽車」もよく売れた。

 今回ご紹介したい歌詞は「君の名は」であるが、実はこの歌のレコードが発売され

たのは翌28年であったから、27年当時はラジオによって急速に広まったようで、

言わば発売前のヒットソングである。

毎回番組の冒頭で、「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲し

さよ」という来宮良子(きのみやりょうこ)のナレーションで始まる「君の名は」は

、菊田一夫さくの連続放送劇で、昭和27年4月から29年3月にかけてNHKラジ

オで放送された。東京大空襲下の銀座数寄屋橋で、初めて知り合った後宮春樹(あと

みやはるき)と氏家真知子(うじいえまちこ)は、名前も告げずに再会を約束して分

かれるが、戦後に二人が会ったとき真知子はすでに他の男と結婚することになってい

た。物語はその後の二人がたどる「すれ違い」の悲恋メロドラマで、放送時には銭湯

の女風呂(ぶろ)ががら空きになったという伝説が残るほどの人気があった。28年

には映画化されてこれも大ヒットしたが、テレビでも今日まで4度ドラマ化されてい

る。そのうちNHKは平成3年4月から4年4月までの1年間にわたって、NHK連

続テレビ小説30周年記念作品(第46作)として放送したので、40代以上ならご

記憶の方も多いと思う。

     君の名は

   作詞:菊田一夫  作曲:古関裕而  歌唱:織井茂子

1 君の名はと たずねし人あり

  その人の 名も知らず

  今日砂山に ただひとりきて

  浜昼顔に きいてみる

2 夜霧の街 思い出の橋よ

  過ぎた日の あの夜が

  ただ何となく 胸にしみじみ

  東京恋しや 忘れられぬ

3 海の涯(はて)に 満月が出たよ

  浜木綿(はまゆう)の 花の香に

  海女は真珠の 涙ほろほろ

  夜の汽笛が かなしいか


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